飲食店のオーナーさん・店長さんは自店の損益分岐点を使って戦略的な経営ができていますか?
事業計画書を作成するのに損益分岐点を理解できなくて困っていませんか?
損益分岐点というものを理解したいけれど、「いまいちよく分からない。」「難しそう。」と思っている人が多いのではないでしょうか。
今回はそんな損益分岐点を実際の飲食店に当てはめて解説します。
これであなたも損益分岐点を経営に活かすことができるようになります。
飲食店を健全に経営する上で、「損益分岐点」というキーワードは欠かせません。
いくら繁盛している飲食店でも、売上を上回るコストがかかっていては、いずれ経営に行き詰ってしまうからです。
本記事では、飲食店経営を赤字にしないための指標となる「損益分岐点」について紹介し、その計算方法や利益率を上げる方法について詳しく解説します。
私は飲食業界に30年携わってきて、色々なオーナーさんの元、飲食店の立ち上げ・立て直しをしてきました。
だからこそわかる細かなところを今回はまとめましたので、ぜひ参考に使ってください。
注目記事:飲食店の開業資金はゼロから始められるのか?物件選び・資金調達は?
飲食店の損益分岐点の活用法
飲食店の損益分岐点(Break-Even Point)は、収益が費用と同じになるポイントを指します。つまり、このポイントを超えて収益が上がれば、利益を上げることができ、損益分岐点未満では損失が発生します。損益分岐点を正確に把握し、効果的に活用することは、飲食店の経営戦略を策定し、収益を最大化するために重要です。以下は、損益分岐点を活用する方法のいくつかです:
- 価格設定戦略:
- 損益分岐点を考慮に入れて価格設定を行います。分岐点を超えるために必要な売上目標を設定し、価格を適切に調整します。これにより、利益を最大化する価格を見つけるのに役立ちます。
- コスト管理:
- 損益分岐点を下回ると損失が生じるため、コスト管理は重要です。原材料コスト、人件費、光熱費など、すべての経費を注意深く管理し、無駄を削減します。
- 新商品やメニューの導入:
- 損益分岐点を超えるために新商品や特別メニューを導入し、売上を増やすことができます。これにより、固定コストをカバーするのに役立ちます。
- 販売促進活動:
- 損益分岐点を達成するために販売促進活動を実施します。特別なキャンペーンやプロモーションを通じて顧客を引きつけ、売上を増やすことができます。
- 顧客忠誠度の向上:
- 顧客忠誠度を高め、リピーターを増やすことで、損益分岐点を容易に超えることができます。定期的な顧客への特典や割引を提供し、忠誠度を高めます。
- 効率的な資金管理:
- 損益分岐点を超えて利益を上げるために、資金管理が重要です。収益の一部を再投資し、ビジネスの成長を支援することができます。
- 競合分析:
- 競合店舗の価格設定とサービスを調査し、競争力を維持または向上させます。競合店舗との比較を通じて、損益分岐点を達成するための適切な戦略を策定します。
- 予算の策定:
- 年間予算を策定し、損益分岐点を達成するための具体的な目標を設定します。これにより、目標達成に向けた行動計画を立てることができます。
損益分岐点は、経営戦略を立てる際の重要な指標であり、収益目標を達成し、飲食店の持続可能性を確保するために活用されるべきです。定期的な財務分析と損益分岐点のモニタリングは、経営の透明性を高め、適切な戦略を採用する手助けとなります。
飲食店における損益分岐点とは
損益分岐点とは、文字通りお店の「損失」と「利益」の分かれ道となる数値のことです。
売上高と、運営にかかるコストの額がちょうど等しくなる点のことを指しており、この時点の売上高のことを「損益分岐点売上高」と呼んでいます。
つまり損益分岐点とは、経営する飲食店が赤字にも黒字にもならない“プラスマイナスゼロ”の地点のことで、売上高が損益分岐点を超えれば、そのお店は儲かっていることになります。
損益分岐点の計算方法を解説
損益分岐点は、以下の計算式で算出できます。
損益分岐点は、売上=費用=固定費+変動費の状態のときの売上高をいいます。
例えば、n個が損益分岐点であれば、n×1個当たりの販売単価=固定費+n×1個当たりの変動費となります。
この式を変形すると、n×1個当たりの販売単価=固定費÷(1-1個当たりの変動費÷1個当たりの販売単価)となります。
1個当たりの変動費÷1個当たりの販売単価=変動比率といって、常に一定です。
損益分岐点でお店が儲かっているのかを確認するためには、固定費と変動費が何かということをおさえなければなりません。
固定費とは?
固定費とは、売上の大小にかかわらず金額が変動しません。飲食店における固定費には以下のようなものがあります。
- 家賃
- 固定資産税
- リース料
- 減価償却費
- 支払利息
お店がテナントなど賃貸借契約で借りている場合は家賃が発生し、店舗を購入した場合は土地や建物の固定資産税が発生します。
厨房機器をリ―スした場合はリース料が発生しますが、購入した場合は減価償却費が発生します。
たとえば、業務用冷凍庫はリース契約をしてフライヤーは購入した場合などは、それぞれリース料と減価償却費という固定費が発生することになります。
支払利息は資金調達するときに銀行などの金融機関から借り入れて返済する際に発生するものです。
変動費とは?
変動費とは、お店の売上にともなって変動する費用です。飲食店における変動費には以下のようなものがあります。
- 食材原価
- 人件費
- 水道光熱費
- 販売促進費
食材原価は「お店を営業するためにぜったいに必要な固定費なのでは?」とお思いになられるかもしれません。
しかし、1日のランチメニューの販売数が50食のときと100食のときでは、トータルの食材原価が異なります。
そのため、食材原価は変動費となるのです。
固定費と変動費は売上や販売数に左右されるかどうかという違いがあります。
固定費である家賃も値段交渉すれば安くすることができるかもしれませんが、基本的には売上によって左右される性質ではありません。
また、人件費は売上に関係なくかかる費用として固定費とする考え方もあります。
しかし、売上に連動して従業員を増やすことがある可能性もあり、年間費用を家賃のように固定して考えることは難しいという側面があります。
そのため、売上や販売数によって費用が変わるかという視点で、固定費と変動費を見極めるようにしましょう。
飲食店の損益分岐点シミュレーション
前項の計算式を実際の飲食店経営に当てはめ、シミュレーションしてみましょう。例として、毎月の売上が350万のレストランで、変動費105万円、固定費210万円がかかるケースで計算してみると次のようになります。
損益分岐点 = 固定費 ÷ (1 – (変動費 ÷ 売上高))
= 210 ÷ (1 – 105 ÷ 350)
= 210 ÷ (1 – 0.3)
= 210 ÷ 0.7
= 300
このレストランの損益分岐点売上高は300万円となり、月に350万円の売上がある今の状態は“黒字”ということになります。
このように、自店の売上高・変動費・固定費の3つの数字を把握していれば、損益分岐点売上高を確認することができます。
損益分岐点をエクセルで管理する方法
損益分岐点はエクセルで管理することができます。
また、インターネット上には無料で公開されているテンプレートもあるため、エクセルに不慣れな人はそれらを活用してもよいでしょう。
上図は、エクセルテンプレートの一例になります。家賃や人件費などの固定費は据え置きにして、料理原材料等の変動費を入力することで損益分岐点売上を正確に把握することができます。
「売上が◯◯円の場合、原価がこれ以上かかると赤字になる」といった、おおよその経営シミュレーションができ、健全経営を続けることが容易になります。
損益分岐点からお店が儲かっているのか確認してみよう
お店が儲かっているのかを確認するためには、利益が発生する売上金額を知る必要があります。
実際に上記の計算式に当てはめて、黒字の状態と赤字の状態を確認していきましょう。
お店が黒字の状態はどういう状態か?
お店が黒字の状態とは、毎月の費用や売上が以下のような状態です。
固定費20万円
- 家賃15万円
- リース料5万円
変動費30万円
- 食材原価10万円
- 人件費10万円
- 水道光熱費5万円
- その他変動費5万円
売上60万円
- 売上60万円
先ほどの計算式に固定費と変動費を入れて計算します。
- 損益分岐点=20万円/(1-30万円/60万円)=20万円/(1-0.5)=40万円
利益が発生し始める売上金額は40万円であるため、売上60万円の場合は黒字の状態であることがわかります。
お店が赤字の状態はどういう状態か?
お店が赤字の状態とは、毎月の費用や売上が以下のような状態です。
固定費20万円
- 家賃15万円
- リース料5万円
変動費30万円
- 食材原価10万円
- 人件費10万円
- 水道光熱費5万円
- その他変動費5万円
売上40万円
- 売上40万円
先ほどの計算式に固定費と変動費を入れて計算します。
- 損益分岐点=20万円/(1-30万円/40万円)=20万円/(1-0.75)=80万円
利益が発生し始める売上金額は80万円であるため、売上40万円の場合は赤字の状態であることがわかります。
赤字のお店を黒字にするためにはどうすれば良いのか?
赤字のお店を黒字にするためには、以下の3つの方法があります。
- 固定費を下げる
- 変動費を下げる
- 固定費と変動費はそのままで売上単価を上げる
固定費を下げる
先ほどの赤字の例ですが、固定費を下げることによって売上40万円でも赤字を黒字にすることができます。
固定費を下げれば、単純に費用の線が下にシフトしますので、損益分岐点も下がります。
固定費を下げる方法はこちらの記事でご確認いただけます。
変動費を下げる
変動費が下がれば、費用の線の傾きも緩やかになります。その結果損益分岐点も下にシフトします。さらに、変動費と固定費の両方を同時に下げる戦略をとることも是非検討してみましょう。
固定費と変動費はそのままで売上単価を上げる
売上単価を上げれば、売上の線の傾きが大きくなります。その分損益分岐点も下にシフトします。
飲食店における損益分岐点比率
損益分岐点比率とは、売上高と損益分岐点の比率のことで、以下の計算式で算出することができます。
損益分岐点比率 = 損益分岐点 ÷ 売上高 × 100
ここでのポイントは、損益分岐点と比較して実際の売上高がどれくらい上回っているかになります。
比率が低いほど赤字への耐性があり収益性が高いといえます。
一般企業では損益分岐点比率は80~90%程度で、90%を超えると経営の見直しが必要とされていますが、飲食店では90%を切る企業はほとんどありません。
売上を伸ばすことで損益分岐点比率を下げることができますが、飲食店においては同時に変動費も増加してしまいます。
そのため、飲食店においては固定費をなるべく低くすることが大切になります。
利益率が低い飲食店の特徴
利益率の低い飲食店の特徴としては以下が挙げられます。
- メニューの価格設定に問題がある(売上に対して高級な食材を使いすぎている)
- 仕事量に対して雇っている従業員が多く、人件費が利益を圧迫している
- テナント家賃が高額な場所に出店しており、売上に対して固定費が高い
要するに、すべて売上とコストのバランスが悪いことが原因となるので、損益分岐点の数値を常に念頭に置いて、損益分岐を下回ることがあればすぐに対策を取るようにしましょう。
飲食店の利益率を上げる方法
飲食店の利益率を上げる方法としては、以下のような施策が考えられます。
- 損益計算書(PL)を作成する
- コストを削減する
- FLコストを意識する
- 回転数を上げる
損益計算書(PL)を作成する
損益計算書(PL=Profit and Loss statement)とは、お店の売上高や家賃、水道光熱費などの固定費、食材などの原価(変動費)などをまとめたもので、1年間でどれくらい儲かったのか、損をしたのかといった経営成績を示す書類になります。
収益(売上)と費用(原価や家賃、人件費など)の内容を明記し、売上から原価を引いた売上総利益(粗利)や、売上から営業活動にかかる費用すべてを差し引いた営業利益など、段階的に利益を計算することができます。
経営にかかわる数字を一覧でまとめることで、売上高に対するコストのバランスも見えやすくなり、健全経営ができるようになります。
コストを削減する
当然のことですが、運営にかかるコストを削減すればするほど利益率は向上します。
特に大きな削減効果があるのは固定費で、賃貸店舗の家賃などが該当します。売上にかかわらず毎月きっちり何十万と取られる家賃を少しでも抑えることができれば、効果は絶大です。
とはいえ一度構えた店舗を引っ越すのは常連客離れにもつながり、デメリットも大きいため、まずは大家さんとの家賃交渉から始めてみましょう。
また、人件費の削減もコストカットの効果が見えやすいものの一つです。
しかし、経営者としては従業員の生活の保証もしなければならないため、いきなり辞めさせるのは難しいもの。
合意のもとで正社員からパートやアルバイトに移ってもらう、暇な時間帯はできるだけ最小限のスタッフで回すなど、小さなことからコストカットを目指すべきでしょう。
FLコストを意識する
FLコストとは、飲食店の売上高のうち食材原価(Food)と人件費(Labor)の割合を求めた数字のことです。FLコストは、飲食店経営で最も重視すべき指標の一つであり、いかに食材原価と人件費を安く抑えるかが経営のカギを握る、といっても過言ではありません。
FLコストとFL比率は、以下の計算式で求めることができます。
FLコスト = 食材原価 + 人件費
FL比率 = (食材原価 + 人件費) ÷ 売上高
一般の飲食店では、FL比率は50%台までに収めるのが良いとされています。
たとえば、売上高200万円のカフェで、食材原価が50万円、人件費が70万円(正社員+アルバイトの給与)かかる場合、FLコストの計算は以下になります。
FLコスト = 食材原価50万円 + 人件費70万円 = 120万円
FL比率 = 120万円 ÷ 売上高200万円 = 60%
つまり、このカフェのFL比率は60%と平均よりやや多めといえます。
アルバイトの人件費などカットしやすい所から手を付け、FL比率を50%台にまで落とすための経営努力が必要です。
飲食店の人件費割合は本当に30%でいいのか?についての詳しい記事はこちらです。
飲食業のFLコスト・FLコスト比率とは?について詳しい記事はこちら。
回転数を上げる
飲食店における収入を増やす方法として、もっともシンプルかつ確実に利益率のアップを狙える施策は来店客の回転率を上げることです。
飲食店の回転数の計算方法は、客単価と売上目標から算出します。たとえば、客単価1,000円のランチがメインで、席数20の喫茶店が月間500万円の売上を目標とする場合、次のフローで計算をしていきます。
1.500万円 ÷ 客単価1,000円 = 1か月に必要なランチ売上数は5,000食
↓
2.5,000杯 ÷ 30日間(店休日なし) = 1日に必要なランチ売上数は約167食
↓
3.167食を20席で割って、1日に必要な回転数は約8.4回
ランチタイムは、長くとも11時~15時くらいまでの約4時間が勝負どころ。8.4回転を4時間で実現するには、4時間休みなくひっきりなしにお客様が来たとして、1時間に2回転以上は必要になります。
このように考えると、ランチ営業のみで20席しかない喫茶店で、月500万円の売上目標はハードルが高すぎることがわかります。回転数を事前にしっかりと計算し、目標に届かない場合は席数を増やす、メニュー単価を上げるなどの改善が必要になってきます。
今より少しでも回転数を上げたい、という場合には、お客様一人当たりの着席から会計までのフローをできるだけ短くするため、以下の工夫が考えられます。
- メニュー数を制限する(悩まずに注文させる)
- シンプルなワンプレート料理を増やす
- Order Entry System(オーダーエントリーシステム)を導入して厨房とホールのやり取りを省く
- POSレジを導入して会計の手間を減らす など
スマレジの強み!小規模飲食店舗にスマレジをおすすめする7つの理由!の記事はこちらからどうぞ。
まとめ
飲食店経営者のための損益分岐点の基本は、以下の3つにまとめることができます。
- 損益分岐点とは【お店の利益が赤字にも黒字にもならない「0の点」のこと】であり、【お店が儲かっているのかを確認するための経営指標である】
- 固定費とは【お店を営業するためにぜったいに必要な費用である】
- 変動費とは【お店の売上にともなって変動する費用である】
損益分岐点を飲食店に当てはめて解説しました。
具体的な金額を当てはめながら考えることができれば、誰でも損益分岐点を経営に活かすことができるようになります。
あなたのお店で今すぐ実践できる方法がないか、損益分岐点を活用して分析してみましょう。