飲食店経営において重要なもののひとつに、食材の仕入れや在庫管理と密接に関わる棚卸しがあります。
しかし、ひと言で棚卸しといっても、店舗にある在庫を数えるだけではありません。
毎年2月から受付が開始される確定申告。
個人で営業されている飲食店では、オーナー自らが申告を行うこともあるでしょう。
確定申告に必要な作業のひとつとして「棚卸」がありますが、飲食店の場合、食材や調味料、備品など、様々な種類の商品を扱うため、在庫の把握や仕入れ価格などの点が少々複雑です。
企業の利益や個人事業の確定申告などにも影響してくるからです。
私は飲食業界に30年携わってきて、色々なオーナーさんの元、飲食店の立ち上げ・立て直しをしてきました。
だからこそわかる細かなところを今回はまとめましたので、ぜひ参考に使ってください。
それでは私と一緒に見ていきましょう!
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飲食店の棚卸しの重要性
飲食店における棚卸し(在庫の点検・計測)は非常に重要な業務であり、経営において以下のような重要性があります。
- 在庫管理とコスト管理:
- 棚卸しは、在庫の正確な数量と価値を把握する手段です。正確な在庫情報を持つことで、無駄な在庫を抑え、原材料や商品の浪費を防ぎ、コストを管理するのに役立ちます。
- 収益最大化:
- 在庫管理は売上と直接関連しています。正確な在庫情報に基づいて、需要に応じて商品を提供できます。品切れを防ぎ、売り上げ機会を最大化することができます。
- 質の管理:
- 飲食店の商品や原材料は新鮮で品質が高いことが求められます。棚卸しを行うことで、古くなった商品や品質に問題のある原材料を発見し、品質を保つことができます。
- 税務申告:
- 多くの国では、年度末や四半期末に在庫の評価が必要です。棚卸しは税務申告のための重要な情報源となります。
- 詐欺や盗難の防止:
- 定期的な棚卸しは、詐欺や盗難を防ぐための重要な手段です。在庫が正確に管理されていれば、不正行為が容易に発見されます。
- サプライチェーン管理:
- 原材料の在庫や調達プロセスを把握することで、サプライチェーン全体の効率性を向上させることができます。納期の遵守や供給の安定性を確保します。
- 売れ筋商品の特定:
- 在庫情報を分析することで、どの商品が人気であるかを特定できます。これにより、メニューの最適化やプロモーションの計画が立てやすくなります。
- 経営戦略の改善:
- 定期的な棚卸しは経営戦略の評価にも役立ちます。在庫の動向を把握し、需要予測を精密化することで、ビジネス戦略の改善につながります。
要するに、飲食店の棚卸しは経営の健全性と持続可能性に直結する要因の一つです。正確な在庫情報を持ち、効果的な在庫管理を実践することで、コスト削減、売上最大化、品質維持など多くの利点を享受できます。
飲食店における棚卸しとは?
棚卸と聞くと小売店などが実施しているイメージが湧くかもしれませんが、飲食店でも棚卸を行う必要があります。
当然ながら飲食店にも食材やドリンクといった在庫があるので、棚卸を行って在庫量を確認しなければなりません。
また、食材以外にも食器や消耗品の棚卸も必要です。
以下で、飲食店の棚卸のやり方・方法について詳しく解説します。
棚卸のやり方・方法
飲食店の棚卸は、以下の手順で行います。
- 棚卸表を作成する
- 在庫数を確認する
- 原価を計算する
はじめに、棚卸表を作成します。棚卸表とは、お店で取り扱っているすべての食材やドリンクなど在庫の品目をリストにしたものです。
リストには、「カテゴリ」「品名」「在庫数」「仕入れ価格」などの項目を用意します。
棚卸表を作成したら、在庫数を確認して棚卸表に在庫数を記入していきましょう。
在庫数を確認する際、「業者からもらったサンプルは数に入れない」「空の箱やケースは事前に処分しておく」といった点に注意してください。
正確な在庫数を把握しにくくなってしまいます。
在庫数を確認したら、品目ごとの原価を計算します。
原価計算の仕方はさまざまですが、飲食店で一般的に使用されているのは、最後に仕入れたときの仕入れ価格で原価を計算する「最終仕入原価法」です。
飲食店が棚卸しをおこなう理由
- 在庫の状況を把握するため
- 在庫の品質を把握するため
- 店舗の仕入れ状況や傾向を把握するため
- 原価率を把握するため
それぞれ詳しく解説していきます。
在庫の状況を把握するため
飲食店が定期的に棚卸しをおこなう目的の中でも特に重要度が高いと言えるのが、「在庫を把握するため」というものです。
飲食店は、食材のストックがなくなるとお客さんに料理を提供することができません。
お客さんに料理を提供できないと収益もあげられないため、「在庫がない」という状況は避けなくてはいけません。
そのため、定期的に棚卸しをおこない、在庫の状況を確認しておく必要があるのです。
在庫の品質を把握するため
飲食店で棚卸しの対象となるのは「食材」ですが、食材はお客さんに料理として提供するものです。
そのため、在庫の状況だけでなく品質も把握しておかなくてはいけません。
- 消費期限を過ぎてしまっていないか
- 色味が変化してしまっていないか
- においが変化してしまっていないか
など、棚卸しで商品の在庫を確認しながら、食材の状態についてもしっかりと確認する必要があります。
状態のよくない食材を提供してしまうと食中毒など大問題に発展してしまう可能性があるので、棚卸しの機会を利用して品質管理をし、そういった事態を避けるようにしましょう。
店舗の仕入れ状況や傾向を把握するため
棚卸し前におこなった食材の仕入れデータと照らし合わせながら棚卸しをおこなうと、店舗の仕入れ状況や傾向を把握することもできます。
在庫の減り具合を見て、仕入れを適切におこなえているかどうかを判断できるため、過剰な仕入れを抑制できます。
また、食材の減り具合で人気のメニューとそうでないメニューも明確になり、店舗運営への活用も可能です。
原価率を把握するため
棚卸しによって正確な在庫が把握できるようになると、原価率を把握できるようになります。
原価率は売上に対する原価の比率をあらわしたもので、飲食店が健全な経営をおこなっていく上で欠かすことのできない指標の一つです。
飲食店の原価率は30%が目安になるので、棚卸しによって原価率が30%以上になってしまっているメニューを発見できれば、提供価格の見直しや食材の量の調整などによって健全な状態に調整できます。
原価率は物価とともに変動し、売上にも直結するため、原価率を把握するためにも棚卸しは定期的に実施する必要があります。
棚卸の目的は?どんな効果がある?
無駄な仕入れを抑えつつ、品切れが出ないように管理することは、飲食店経営における基本。
定期的に棚卸をして出庫と在庫の状況を確認し、前年同月などと比較することで、仕入れの予想を立てやすくなります。
また、原価計算も非常に重要な作業。きちんと在庫金額を計算することによって、原価計算の精度を上げることができます。
こうした在庫整理の徹底は食材ロスの防止にも繋がり、保存スペースを衛生的に保つ効果も期待できます。
在庫が増えると税金があがる!?確定申告のポイントは?
1.在庫も税金に影響する
確定申告では1月から12月の間の所得に応じて税金の額が決まります。
そして、売上や仕入、経費だけでなく、12月末の在庫も利益や税金に影響します。
単純にいうと、年末の在庫が多いと「売上原価」が下がる⇒利益が上がる⇒税金が上がる、というロジックです。
とくに無駄な仕入れや在庫がないよう、月々の棚卸で工夫しましょう。
2.「年末の在庫」とは?
確定申告における「期末商品棚卸高」とは、12月末に残った在庫のうち、翌年1月からの営業に利用できる食材やドリンクなどの金額を指します。
なお、日持ちがしないために廃棄した物などは含めません。また、次年度の確定申告の際には、「期首商品棚卸高」となります。
3.在庫には「商品」と「消耗品」がある
確定申告で計上する在庫は、「商品」の在庫です。食材やドリンクは商品にあたります。
では、調味料はどうでしょう。
実は、調味料は「消耗品」にあたり、納品された時点で経費になります。
そのほか割りばしや洗剤なども消耗品の分類に。棚卸表を作成する際には、商品か消耗品か区別する項目を作ると良いでしょう。
4.在庫の金額を求めるには?
仕入れ価格(在庫単価)を決める方法は様々あります。
その方法によって確定申告する利益や納税額が変わってしまうので、初めての確定申告と一緒に「所得税の棚卸資産の評価方法の届出」をしなければなりません。
届出をしない場合は、直近の仕入れ価格を採用する「最終仕入原価法」が適用されます。
5.棚卸表は保管の必要がある
棚卸で使う棚卸表は、確定申告では提出しませんが、青色申告では7年間、白色申告でも5年間保管する必要があります。
以上のように、棚卸には在庫数と在庫金額の管理という大切な役割があり、確定申告でも必要とされます。
最低でも月に1度は棚卸をして、見通しを持った飲食店経営を行っていきましょう。
飲食店における棚卸の重要性・メリット
飲食店においても、棚卸は重要です。飲食店でもしっかりと棚卸を行う必要があるのは、以下のようなメリットや重要性があるためです。
- 正確な原価率が把握できる
- 食材ロスや在庫ロスを軽減できる
- 確定申告にも影響を与える
ここでは、上記3つのポイントについてそれぞれ詳しくみていきましょう。
正確な原価率が把握できる
棚卸を行うと、以下の計算式で正確な原価率を把握できるようになります。
飲食店は食材を一度に多く仕入れるため、次の年に繰り越される在庫も出てきます。
この場合、正確な原価を把握するには前年の在庫と次年に繰り越す在庫を考慮して原価を算出しなければなりません。
そのためには、棚卸が必要です。
原価率が高すぎると、売上が多くても利益はあまり出ないため、飲食店経営では原価率の把握が重要になります。
棚卸の実施で正確な原価率を把握できるようになると、利益を出すための対策が取りやすくなります。
食材ロスや在庫ロスを軽減できる
棚卸を行うとすべての品目の在庫数が把握できるため、定期的に棚卸を実施すると残りやすい食材や不足しがちな食材が見えてきます。
棚卸によって在庫状況を正確に把握できれば、仕入れ量も適切に調整でき、食材ロスや在庫ロスを減らせるのもメリットのひとつです。
在庫管理が曖昧では、まだ在庫があるのに追加発注してしまったり、多く仕入れすぎて使い切れないまま消費期限を過ぎてしまったりして、食材を廃棄せざるを得なくなるケースもあります。
特に、長期保存できない食材は在庫管理をしっかり行わなければロスになりやすいので、注意しなければなりません。
食材ロスによる環境負荷の問題が注目されているほか、仕入れ費用が無駄になって経営を圧迫する原因のひとつにもなるため、飲食店においても棚卸は重要だといえます。
確定申告にも影響を与える
年末の在庫数は、確定申告や税金にも影響を与えることを把握しておきましょう。
年内に消費しきれず翌年に繰り越す在庫があった場合、確定申告の際に繰越分の仕入れ費用は翌年の経費として計上するため、当年の経費が少なくなります。
経費が少なくなると必然的に利益が上がるため、在庫を翌年に持ち越すと税金が高くなる点に注意が必要です。
特に年末は、余分な在庫を持たないようにしましょう。
定期的に棚卸をしていれば、普段から在庫量の調整がしやすく余分な在庫も発生しにくくなります。
先ほど紹介したように食材ロスの問題もあるので、棚卸で在庫量をしっかり把握して普段から適切な量を仕入れるよう意識することが大切です。
年末の在庫と確定申告
飲食店を開業して利益が出始めると、所得を申告するために確定申告をおこなわなくてはいけなくなります。
翌年に納める税金は確定申告で提出した情報によって算出されるため事業主は確定申告を必ずおこなわなくてはいけません。
飲食店の経営者が確定申告をおこなう場合、注意しなくてはいけないのが在庫についてです。
先述したとおり、飲食店が仕入れて保管している食材は在庫として取り扱われます。
12月31日までに消費しきれずに保管している食材の在庫は、次の年の期首棚卸高として取り扱われますが、期首棚卸高になるとその年の経費として計上できません。
経費として計上できないため、その分翌年の税金が高くなってしまう可能性があります。
もちろん翌年の経費として計上できるので無駄になってしまうことはありませんが、経費計上できない在庫を大量に抱えて年をまたぐのは得策ではありません。
定期的に棚卸しをおこない、なるべく不必要な在庫を発生させない店舗経営を心がけましょう。
棚卸を行うときのポイント
飲食店が棚卸に取り組む際は、以下のポイントを押さえておきましょう。
- 定期的に実施する
- 流れを決めてマニュアルを作成する
- システムやアプリを活用する
それぞれのポイントについて、以下で詳しく解説します。
定期的に実施する
棚卸は定期的に実施する必要があり、特に飲食店は食材を扱っているため、できるだけ短い間隔で実施するのが望ましいとされています。
可能であれば毎日、最低でも月に1回は棚卸を行いましょう。
食材は種類が多く、仕入れ価格の変動も起きやすいため、頻繁に棚卸を行って正確な原価率を把握しておくことが大切です。
食材の鮮度や量を管理するためにも、なるべく短い間隔で棚卸を行うようにしてください。
取り扱う食材が多い店舗は在庫の確認に時間がかかるため、なるべく棚卸の負担を軽減できるように、保管場所別に数人で分担するなど効率的に行える方法を検討しましょう。
流れを決めてマニュアルを作成する
スムーズに棚卸を行うために、流れを決めてマニュアルやフォーマットを決めておくのも効果的です。
マニュアル化しておくとミスや確認忘れを防げるだけでなく、担当者が変わっても引き継ぎしやすいというメリットもあります。
食材によって保管場所が分かれていたり、量や種類が多かったりすると、「バックヤードにある在庫の確認を忘れた」「開封後の食材のカウント方法が人によって違った」などの事態が発生するおそれがあります。
誰が棚卸をしても正確な在庫量を把握できるように、しっかりとしたマニュアルを作成しておきましょう。
システムやアプリを活用する
棚卸や在庫管理をより効率的に行いたい場合は、在庫管理用のシステムやアプリを活用するのがおすすめです。
在庫の増減をシステムで一元管理し、ハンディターミナルでバーコードを読み込むだけで棚卸ができる製品やサービスもあります。
システムやアプリを活用すると、人が目視で確認して手書きで在庫数を記入するよりも、ミスが起きにくく手間の軽減も可能です。
POSレジのなかには在庫管理機能が搭載されたものもあり、ハンディターミナルによる棚卸に対応した製品もあります。
仕入れやロスなどもPOSレジに登録しておけば履歴を辿れるので、データと実在庫にズレがあった場合に原因を探しやすくなるのもメリットです。
棚卸を効率化したい人には「スマレジ」がおすすめ!
棚卸を効率化するためのシステムやアプリの導入を検討しているなら、「スマレジ」
がおすすめです。スマレジはiPadやiPhoneをPOSレジとして使用できるアプリで、レジ会計の効率化や売上分析などができるほか、在庫管理機能も備えています。
スマレジの在庫管理機能のひとつとして棚卸機能も提供されていて、iPod touchやiPadでバーコードが読み取れるため高価なハンディターミナルは必要ありません。
棚卸の実施履歴を確認でき、理論値と実数の差をPDFとして出力することも可能です。無料のオンライン相談や詳しい資料をご用意しているので、ぜひチェックしてみてください。
まとめ
飲食店を経営する上でおこなわなくてはいけない作業の一つである「棚卸し」について紹介してきました。
棚卸しは手間のかかる面倒な作業ですが、確定申告のために必ずおこなわなくてはいけません。
また、店舗の経営状況を把握するために年末だけでなく毎月おこなうのが基本です。
今回紹介させてもらった内容を参考にしていただき、棚卸しをスムーズに行いましょう。
誰でも棚卸しを対応できるような状態にしておくと、スタッフ一人ひとりの負担も減るので、まずはマニュアル作成から始めてみてはいかがでしょうか?