飲食店の人件費割合が30%だと適正だと思っていませんか?
実は、これは勝手に一人歩きしたもので噂のようなものです。
もし、人件費割合を30%と考えて経営していたら、今の時代は倒産に突き進んでいます。
では、適正の人件費割合は何%なのでしょう?
今回の記事を読むと、
私は、30年以上飲食業界に携わってきました。
色々なオーナーさんの下でたくさんの飲食店の立ち上げ・立て直しをしてきました。
だからこそわかる細かなところを記事にしています。
少しでも参考になれば幸いです。
今回の記事では、
- 適正人件費割合がわかります。
- 本当の人件費に含まれるもの
- 人件費を管理する方法
- 人件費を削る方法
をわかりやすく解説しています。
それでは私と一緒に見ていきましょう。
注目記事:飲食店の開業資金はゼロから始められるのか?物件選び・資金調達は?
飲食店の人件費割合(率)は本当に30%でいいのか?
飲食店の人件費割合は、営業コンセプト、経営戦略、地域の労働市場状況、メニューやサービスの種類、価格設定など多くの要因によって異なります。したがって、一概に「人件費割合は30%でいい」とは言えません。30%はあくまで一般的な指標であり、目安として参考になることがありますが、個々の飲食店の状況に応じて変動することがあります。
以下は、人件費割合に関する考慮すべきポイントです:
- コンセプトとサービスレベル:
- 高級レストランやファーストフード店など、異なるコンセプトの飲食店では、スタッフの数とスキルに関する要件が異なります。高品質のサービスを提供する場合、人件費割合が高くなることがあります。
- 労働市場:
- 地域の労働市場状況によって、スタッフの給与や福利厚生の水準が異なります。競争が激しい場合、スタッフを確保するために給与を引き上げる必要があるかもしれません。
- スタッフのスキルと経験:
- スタッフのスキルや経験によって、彼らへの給与と福利厚生に対する要求が変わります。高度な調理技術やサービススキルを持つスタッフは通常、高給与を求めることがあります。
- 効率化:
- 労働効率化や自動化技術の導入によって、人件費割合を削減することができます。例えば、POSシステム、オーダーキオスク、自動料理調理装置などを導入することで、人員の必要性を減らすことができます。
- 顧客需要と営業時間:
- 需要のピーク時や営業時間によって、スタッフの配置を調整することが必要です。需要が高い時間帯に多くのスタッフを配置し、需要が低い時間帯にはスタッフを削減することが効果的です。
- 経営戦略:
- 一部の飲食店は高い人件費をかけてサービス品質を強化し、他の店舗はコストを最小限に抑えて価格競争力を維持する経営戦略を採用しています。経営者は自身の戦略に合った人件費割合を設定する必要があります。
人件費割合は飲食店の経営において重要な要素であり、収益性や競争力に影響を与えます。したがって、個々の飲食店は自身の状況や経営戦略に基づいて適切な人件費割合を設定し、効果的に管理する必要があります。
飲食店における人件費率の目安はどのくらい?
(人件費÷売り上げ)×100の計算式により、人件費率を算出できます。
人件費率を考えるとき、セットで考えたいのは食材費です。
人件費と食材費は変動費であるため、適切な管理が必要になってきます。
飲食店経営において、人件費と食材費が主な出費となり、利益率に大きく影響を及ぼします。
仮に人件費が高くついても、食材費を安く抑えることができるなら、経営は安定した状態を保てるでしょう。
その反対に、人件費をいくら削減しても、食材費が高くついて経営を圧迫してしまうこともあります。
そのため人件費と食材費を合わせたFLコストを、売り上げ全体の55~60%が適正という考え方もあります。
FLコストについて詳しく書いた記事を合わせてお読みください。
飲食店経営の重要な指標のひとつに「FLコスト」というものがあります。
「F」とは「Food」、つまり食材費のこと。そして「L」は「Labor」のことで、人件費を指します。
飲食店経営において利益を出すためには、この「食材費」と「人件費」を売上の60%以内に抑えなければいけないと言われており、その目安として「食材費率=30%」「人件費率=30%」という数字が生まれたのです。
もちろん業態や店のコンセプトによって、その比率はさまざま。
例えば『立喰い焼肉 次郎丸』の食材費率は42%。良質な肉をリーズナブルな価格で楽しめることが“売り”となり超繁盛店に成長しました。
その代わり人件費率は17%に抑え、FLコストは合計で59%。利益が出る60%以内にしっかりと収めています。
このように、人件費は食材費とセットで考えるべきで、「人件費=売上の30%」という言葉を鵜呑みにするのは少々危ないというわけです。
ちなみに「人件費」には、給与のほかにも社会保険料や店負担の福利厚生費、さらに通勤交通費や賞与等の手当も含まれているので注意が必要です。
本当の人件費に含まれるもの
- 賞与(ボーナス)
- 役職手当などの各種手当
- 社会保険料
- 福利厚生費
- 通勤手当
- 社宅費
もちろん「正社員なのかアルバイトなのか」や「どのような条件の元で雇用関係にあるのか」によっても含まれるものは変わってきますが、ざっくりと上記のようなものが含まれていると考えましょう。
法人化していれば「社会保険への加入」は必須ですし、個人事業主でも常時5人以上の従業員が働いている場合は「社会保険への加入」が義務です。
※飲食業は5人以上でも「任意適用」です
そこで、もしも「社会保険の適応がある」という前提で計算するならば、ざっくりと「給与×1.16」で計算すると良いです。
仮にボーナスが年間4か月分あるのであれば、それも加えた上で1.16倍してみましょう。
(例)社会保険も加えた給料
月給25万円 × 16か月(4か月はボーナス) × 1.16 = 464万円
上記計算には「交通費」は含まれていませんので、そのあたりの考慮も必要です。
経営者なら知っておきたい様々な指標
「人」に関する指標は「人件費率」だけではありません。経営において大切な指標がいくつかあるので、簡単にご紹介していきましょう。
■人時売上高…労働時間1時間につき、どの程度の売上高が得られるかを表した数値。計算方法は「売上高÷従業員の想定労働時間」。基準値は4000円以上。
■労働分配率…粗利高に占める人件費の割合。付加価値に対する人件費の割合を示す指標であり、店が新たに生み出した価値のうち、どれだけ人件費に分配されたかを示す指標。計算方法は「人件費÷粗利高×100」。基準値は40%以下。
■労働生産性…従業員1人あたりの生産性を示す指標。計算方法は「粗利高÷換算人員」。基準値は500,000円以上。
■平均時給…社員・パートも含めた1人1時間当たりの時給。計算方法は「総人件費÷想定労働時間」。基準値は1,200円以下。
これらの数値を分析しながら、人件費を含めた経費を総合的に調整していくことは細やかな経営には欠かせません。こうした指標を簡単に出せる会計ツールもあるので、まだ導入していない方はぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
採用活動をする際に注意すべき点
また、採用活動においては、上の工程で調整・算出した人件費をもとに、募集の際に提示する従業員の月給・時給を決定しなくてはなりません。
その場合、以下の点にも注意を払う必要があります。
・最低賃金を下回っていないか?
・周囲にある飲食店の給与相場と比較して給与が低すぎないか?
・同業態の飲食店の給与相場と比較して給与が低すぎないか?
人件費を管理するうえで大切な3つのこと
人件費を管理するうえで大切なことを3つお伝えします。
1、人件費の「予定額」と「実績額」を一致させる
人件費を管理するうえで最も大切なのは、人件費の「予定額」と「実績額」を一致させることです。
無駄のない適切な計画を立て、計画通りの労働時間と金額にしていくことが重要です。
2、採用活動では費用対効果を意識する
「時給900円だけど仕事ができない従業員4名」よりは、「時給1200円だけど評判のいい従業員3名」の方が、最終的に店にとっては有益です。
人件費を安く抑えることだけを考えるのではなく、費用対効果を意識した採用活動が大切といえるでしょう。
3、人件費を変動費として調整できるようにしておく
売上の増減に合わせて、スタッフの労働時間を調節しなければ、人件費が固定費となってしまい、売上低調時に利益を落とすことになってしまいます。
オーナーや社員などの固定費以外は、売上予測と実績の増減に合わせてシフトを調整するようにしましょう。
人件費率の数字を下げるための方法
ここからは、お店の人件費率を下げるための効果的な方法を考えてみましょう。
オペレーション・労働時間・生産性という3つのポイントから、人件費率の数字を下げるのに良い方法を紹介します。
オペレーションを見直す
まず、従業員の労働を減らすためにオペレーションを見直すことです。
ここで言うオペレーションとは従業員が行わなければならない作業のことです。
飲食店においては、お客さまに対する席への案内、注文取り、調理、配膳、会計などが含まれます。こうした一連の流れを見直してオペレーションを簡素化するなら、必要な従業員の数を調整できます。
たとえば、お客さまが端末を操作して自分で注文できるテーブルオーダーシステムを導入するなら、毎回注文を取りに行く必要はありません。
初期費用はかかりますが、導入後の人件費はかなり削減できます。導入時のコストや年間の人件費などを計算しながらじっくり検討してみると良いでしょう。
小さなことで考えてみると、各テーブルにメニューやカトラリーなどをあらかじめ配置しておくだけでも効果的です。
来店や料理の提供のたびにメニューやカトラリーを準備して持って行く手間を省けます。
とはいえ、何でもセルフサービスにしてしまうと、顧客満足度が低下してしまう恐れもあります。
満足度を低下させないまま、どんな面でオペレーションをシンプルにできるか、考えてみましょう。
労働時間を見直す
2つ目は、時間帯による集客の傾向を分析して、従業員の労働時間を見直すことです。
時間帯ごとに集客率や売り上げを計算して、適切な従業員数になっているかどうかチェックしてみましょう。
ピークタイムには十分な人手を確保しつつも、それ以外の時間帯については細かく調整するとコストを減らせます。
仮に、時給1,000円のお店で1日30分ずつアルバイトの労働を減らしたとすると、1ヶ月では1万5000円、年間では18万円にもなります。
短時間労働の従業員が働くシフト時間を調整すれば、全体として見ると大きなコスト削減です。
人件費の高騰の原因である、夜間の労働や残業代を見直すこともできます。
下準備や事務作業など、別の時間にもできる仕事はなるべく日中に行いましょう。
営業時間終了後に仕事が残っている場合も、翌日にできるものは残業せずに翌日に回すようにします。
生産性の高い従業員を定着させる
最後のポイントは、少ない従業員数でもスムーズに仕事が運ぶよう、生産性の高い従業員を定着させることです。
働く人の入れ替わりが激しいお店では新人従業員がよく入ってくるということになり、教育にかなりの時間がかかります。また、注文を聞く、洗い物をするといった簡単な仕事であっても、新人と熟練従業員とでは作業時間や仕事の質に大きな差が出ます。
生産性の高い従業員を雇うためには、長く働いてもらえる環境を整えることが必要です。
長時間労働をさせない、休暇を取りやすくする、風通しをよくするなど労働環境を整備すれば、長く続ける従業員は自然と多くなり、生産性の向上が期待できます。
まとめ
「人件費は売上の30%を目安にすると良い」という言葉を鵜呑みにするだけでは、適切な店舗運営はできません。
人件費は飲食店経営の中でも最も着目すべき数字なので、さまざまな側面から考察し、自店にとって最適な人件費率を導き出したいものですね。
食事どきに忙しさがピークになる飲食店において、うまく人員を配置して人件費を管理するのは簡単ではありません。
しかし、適切な人件費管理は経営の安定につながります。まずは人件費率を計算して、現状をつかむことから始めましょう。
この記事で取り上げた「オペレーションをシンプルにする」「労働時間を見直す」などの人件費率削減の方法を参考にして、利益率の向上を目指してください。